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吼える月
第15章 手紙
先ほどまでサクとユウナに手を振っていた、大勢の近衛兵達が……背後から押しかけた餓鬼の餌食になっていた。
近衛兵だけではなく、大砲さえも……。
潮風が、生臭い血の臭いを運んでくる。
「きぇぇぇぇぇぇっ!!」
獲物にありつけた餓鬼達の狂喜の声が聞こえてくる。
「いやあああああああ、なにあれっ!!」
「海を……海を泳いでこっちにくるぞ!?」
「サ、サク。どうしよう、餓鬼は泳げるみたい……。あんな大勢の餓鬼達が来たら、いずれこの船……っ。逃げ場がないわっ」
ユウナは顔面蒼白で、サクの腕を掴んでガタガタと震え始めた。
「海は水。水は玄武の力の加護がある。ならば……っ」
水面がうねると、船が激しく揺れた。
「サク、さっきみたいのは駄目よっ!! 転覆するわ――っ!!」
「――くっ!!」
揺れるのが水。
流動するのが水。
水の波動は、こちらに還る。
小規模に水飛沫のようなものを巻上げ、部分部分に狙いを定めて弾いてみたが、その数が多すぎたのと、すべてを命中させるほどに、制御力は確実ではなかった。
先ほどのようにただ大量放出した力をひとつ制御するのではない、無数の標的に同時に命中させるという、細やかな制御力を求められていた。
つまり、多大の……とはいえ、力を使えるようになったばかりの、初心者たるサクに応用を突きつけられているのだった。