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吼える月
第15章 手紙
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「姫様、金出してちょっと個室……譲って貰いました。この船の乗客は、皆、蒼陵国からの出稼ぎ商人らしく、もう船が出ないことを知り国に帰る者達ばかり。どうやら近衛兵の手形とやらは、黒陵の民かどうかを基準にして発行されていたようです。皆姫様や俺の顔を間近で見たことがないみたいで、顔を隠さずともいいです」
甲板でなにやら探していたユウナは、サクの言葉に頷きながらも、困った顔をサクに見せた。
「どうしました?」
「イタ公ちゃんが見当たらないの。海に落ちちゃってたら……」
「ああ、あいつならネズミ採りに元気に奔走してますよ。この船に結構いるらしいですよ。ネズミを捕まえられればあいつも満足、乗客も満足」
「サクって……イタ公ちゃんと会話できるの?」
「会話……っていうほどのもんではねぇですが。まあ、仲良し…ではあるんでしょうがね。
さあ姫様移動しましょう。イタ公は放って置いても平気。用があれば、勝手に見つけてまたのそのそとやってくるでしょう」
そしてサクが入ったのは、ただ扉がついているだけの板張りの簡素な個室。それでも寝台や、応接用の調度はある。
「姫様疲れたでしょう、少しお休み下さい」
サクは荷物を下ろすと、長衣の裾を翻して出て行こうとした。
「サクは?」
「俺は外に。いつも通りに護衛を……」
「……無職なのに?」
「う……っ」
長年の慣れで出てしまった言葉に、辛辣な言葉が返る。
「サク、ちょっとこっち来て」
寝台に座ったユウナは、サクをちょいちょいと指先で呼んだ。
「なんです?」
傍に立ったサクに、自分の隣に座るように指示をする。
「ちょっとお座り」
よくわからぬまま堅い寝台に、ユウナと共に腰を沈めると、突然ユウナはサクの腕をひっぱり、その顔を自分の膝に押しつけた。
「姫様!?」
いわゆる――膝枕だった。