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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
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倭歴498年――。
星見が予言した、凶兆を告げる赤き満月の出現を数日後に控え、倭陵全域4国すべて、万全な護りの態勢に入ろうとしていた。
民には"赤き満月"の詳細は伝えられてはなかったものの、祠官や武神将が動く様に、平和を脅かすなにかが訪れようとしているのを感じ取っていた。
だが、神獣の加護ある祠官と武神将に鎮護され、500年続いた歴史が簡単に幕など閉じはしまい――。
思い込みにも似た安直な祈りは、倭陵屈指の美姫とされる黒陵国の姫の婚儀への期待に向けられ、必要以上に盛り上がりを見せていた。
そうした活気に、現実逃避じみたどこか空虚な虚飾さを感じていたのは、倭陵最強と呼ばれる、玄武の武神将だった。
彼は精鋭部隊を引き連れ、ここ数ヶ月において、黒陵に点在する幾つかの小さな街が住民諸共ひと晩で消滅するという、怪奇現象の調査に乗り出していた。
そこで彼らがいつも目にするのは、腹部を膨張させた痩せ細った人型の群れ。街の残骸を食らう、"餓鬼(がき)"の姿だった。
永久に空腹を満たすことができないゆえに、なにより強い食欲を持ち、瓦礫はおろか家畜や人間を生きたまま食らう、生きし屍――。
執拗に食という生に執着する、おぞましき不浄なそれらは、国が滅びる際に現れ、崩壊の使者とも言い伝えられるものでもあった。
武神将達は浅ましい姿を晒す餓鬼の群れを駆逐しながら、餓鬼が突然湧いた理由に、不吉なものを感じずにはいられず、原因究明に奔走した。
そして見つけたのは、険しい山にあった洞穴。
数日前の落雷のせいか、入り口を隠蔽していた木々が焼け焦げたらしい。
その中は、洞穴とは思えぬほどの立派な造りをしており、豪奢な調度が据えられ、つい最近まで、ここで誰かが生活していたと見られる名残があった。
黒陵の武神将は、絨毯に散らばる……金糸のように煌めく長い髪を手に取り、目を細めた。
〜倭陵国史〜
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