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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
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倭暦498年、赤き満月の上る当日――。
その日は、16歳になる黒陵国の姫ユウナと19歳になる文官リュカ、若々しく美しいふたりの婚礼を明日に控えていた。
姫の父である黒陵祠官は、その日の決行を望んでいたのだが、他国の反対に屈し、赤く満月が過ぎた吉日にての婚儀を執り行うこととなった。
ユウナは、たった今し方、去り際にリュカが耳もとで囁いた言葉を思い返していた。
"今夜……君の部屋に行くから"
それは不吉な予言のために、守ってくれるのだと思ったユウナに、
"初夜まで待てないんだ……"
妖艶な眼差しで、呆けるユウナの頬に唇を寄せた。
"幸福の延長上に……婚儀をしたいんだ。意味わかるよね?"
途端顔を真っ赤にさせて取り乱すユウナに、リュカは妖しく微笑んだ。
"だからユウナ。僕が君の部屋に忍び込めれるように、本殿の鍵を開けていてくれないか?"
玄武殿は、ユウナと祠官の寝所や生活するための部屋が揃っている本殿の左右に、臣下達が住まう離れ、祠官が祈りを捧げたり会議や謁見を行う際の部屋がある紫宸殿と、3つに別れている。
赤き満月に関連した"異端者"からの来襲に備え、玄武殿を複雑化をした方がいいとのリュカの提案により、正門から各殿に行き着くために罠が仕掛けられた迷路が作られていた。
その罠の解除は祠官とリュカが、そして迷路を通らずとも離れに入れる隠し通路は、ハンとサクとリュカが知っている。
だが離れを含め、3つの殿は夜間には鍵が落とされているため、夜3殿を行き来するには、内外の鍵を外さねばならない。
つまり、離れに住まうリュカは本殿への鍵を開けることは出来るが、本殿に住まうユウナの協力がなければ、離れからユウナの部屋にはこれないのである。
それはユウナの意志を試しているようなものだった。
リュカの夜這いに、応じるかどうか。