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吼える月
第15章 手紙


 情事を思わせるような熱っぽい目が向けられた。

 そんな目で見つめられ、冗談めき……だがどこか切実な言葉を受けたユウナは、心臓を思いきり跳ね上がらせ、勢いあまってそのまま後ろに倒れてしまった。


「よ、よよよ……」


 許容量が超えてしまったらしい。


「……。さっきは俺の嫁だと言ったくせに」


 サクは不満そうな声を発しながら、もそもそと衣擦れを音を響かせて、ユウナに覆い被るかのように、その顔の両横に腕をついて上から見下ろしてくる。


 男らしい喉仏。

 襟元から垣間見える鎖骨。

 
 端正すぎる顔は、どこか妖美な甘やかさを纏う。


 治療とはいえ、ユウナが知ったばかりのサクの艶香に、正気のユウナがまともに対抗できるはずはなく。

 ……サクを味わった身体が、戸惑い以上に疼くばかりで。
 
 

「そ、それは……ちょっ、サク……っ」


 サクの手が邪魔で逃げられない。

 さらにはユウナの上にサクの両足が跨がってしまう。

 つまりサクの手足の檻の中に、閉じ込められてしまっていた。


「姫様……俺をひとりにしないんでしょう? ずっと居てくれるんでしょう? 逃げだそうとしているように見えますが……」

「き、気のせいよ!! それよりなにを……」


 そこに凌辱された"男"の恐怖を芽生えさせないようにと、ユウナの様子を注意深く観察して、細やかに気遣うサクの思いはなんのその、ユウナはサクの余裕ぶりにただ翻弄されて、恐怖どころの話ではなかった。

 サクに抱かれた記憶の方が強く蘇り、恥ずかしいのだ。

 ……だがその記憶は、決して嫌なものではない。


 その心の動きまでは、彼女自身、そしてサクも気づいていなかったが。

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