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吼える月
第15章 手紙
「なにをって、"甘えっ子"ですよ、姫様。姫様が甘えろって言ったんじゃねぇですか。だから存分に甘えさせて貰います」
サクはわざとらしくユウナの耳もとに唇を寄せると、鼓膜の奥に届かせるように熱い息と共に囁いた。
「……で、嫁になってくれるんですか?」
ユウナの心臓は爆発しそうだった。
「だからなんでそんな話になるの!!」
さっきまで、ユウナ同様「嫁」の発音さえままならなかったというのに、この変わり様はなんなのだろう。
熱を孕んだ瞳に吸い込まれそうで、ユウナは抵抗のようにサクの目を見ることができなかった。
「サ、サク。言ったでしょう、1年前のこと。だからあたしは、サクと一緒にいたいから、夫には……」
「それは……姫様事情でしょう?」
拒まれたサクは僅かに顔を曇らせると、ユウナの耳にわざとふぅっと息をふきかける。ユウナは真っ赤な顔でびくんと身体を震わせた。
「姫様のご両親がそうであっただけの話。ですがね、姫様。世の夫婦はそれだけではねぇんですよ。俺の親父とお袋なんて、日々濃度を増してイチャイチャです。その片鱗、姫様も見たでしょう?
国の姫が来ていようが、息子がいようが、他人が見ていようが……あのふたりは関係ねぇ。心も体も幾重にも繋ぎきって、もう一心同体。半身なんです。誰も断ち切ることが出来ねぇ」
「………っ」
「親父が遠征にいったりして家を空けることが多ければ多いほど、その後の仲は凄まじく密になります。平気で何日もふたり部屋から出てこねぇ。開いた距離以上、縮まるんです。息子の俺ですら、家に居るのが居たたまれなくなるほど……」
昔から、ハンが遠征から帰還した後は、サクはしばらく家に帰りたくないとぼやき、玄武殿に泊まることがあった。
折角家族水入らずに過ごせる時間が戻って来たのに、これも不器用な愛情表現なのかとユウナは思っていたが……、きちんとした理由があったらしい。