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吼える月
第15章 手紙
「……1年前、あたしは幸せになれると思ってた。リュカが夫で、サクはずっと一緒で……。皆で笑って平和に過ごせると……。
それが壊れたのは、あたしがリュカを選んだからなのかな。リュカと幸せになろうとしたのが……間違いだったのかな……」
「……」
「もしもあの時、リュカではなくサクを選んでいたら……誰も死ぬことなく、皆笑顔で幸せでいられたのかなぁ……?」
サクは、指先でユウナの眦から止めどなく流れ続ける涙を拭う。
「……過去は過ぎたことです。姫様はこれから幸せに……」
「なれるわけないわ」
「なぜ? 凌辱……されたから? でもそれは俺……」
「それもないわけではないけど」
「では……。リュカが、忘れられないから? リュカ以外のもとでは、やはりどうしても幸せにはなれないと?」
サクの声が硬質なものとなる。
「違う。幸せに……なっちゃいけないの、"薄情すぎる"あたしは……」
その心を聞こうとするサクの目が、切なげに揺れた。
「……あたしリュカが好きだった。リュカに幸せにすると、皆の前で誓って貰えて嬉しかった……。それなのに……っ」
ユウナは伸ばした手で、サクの身体を下から抱きしめた。
「ねぇサク……っ、あたしね……幼なじみとしてのリュカには未練はあるのに、夫となるリュカに対しては……女として、未練がないことに気づいたの。あたし……薄情だったのよ!!」
ユウナの口から、今まで閉ざしていた真情が吐露される。
それはまるで許しを乞う咎人の、懺悔のように――。
「リュカと結婚して幸せになれないという事実が、人ごとのようだった……。リュカに愛されていなかった……それはショックだったけれど、その件では深い心の傷として引き摺らない。
……失恋の痛みって、こんなにあっさりしているものなの? それ以外の"されたこと"に対しては、じくじく心が膿んでいるようなのに」
「………」