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吼える月
第15章 手紙
サクの場合、失恋の痛手は途方もなく。
泣いて吐いて暴れて荒れて、1年経ってもまたしつこく引き摺り、諦めようとしても諦めきれず、だから余計に傷は癒やされず。この先も治癒することがないだろうほどの心の傷の深さを、彼自身自覚していた。
だからサクの方が逆に訊きたいほどだ。
失恋にここまでねちねちしているのは、自分だけなのかと。
……ふたりはあまりにも両極端に位置しているようだ。
「あたし、リュカが好きだったのに。リュカに抱かれようとしていたほど、あたしリュカが……」
「姫様、もういいです」
サクの顔が苦しげに歪められた。
その事実は、サクにとっては辛いものだったから。
そのために、何度涙を流してきただろう。
「あたし、リュカが来たらドキドキしていた。嬉しかった。会えないのは寂しかった。だけど……恋じゃなかったのかもしれない。近くにいすぎたための……親愛の情だったのかもしれないとすら思う。
もう、恋だの愛だの……わからなくなった。わかったのはあたしが薄情な女だということだけ。
リュカとなら、お父様とお母様のように疎遠になってもいいと、あたし無意識に思っていたんだわ。サクを得る代償に、あたしはきっとリュカを……。あたし、酷いわ。酷すぎるわ。伴侶と決めた大切なリュカを、心では蔑ろにしていたのよ。だから、だからリュカは……」
「姫様っ」
「バチがあたったのよ、あたしがリュカを……夫として、男として好きになろうとしていなかったから。リュカはきっとそれを見抜いていた。そしてあたしに失望したんだわ。どうでもよくなったんだわ。
あたしは、この先婚姻なんてしない。黒陵の姫から堕ちたこんな穢れたじゃじゃ馬、貰おうとしてくれる奇特なひともいないだろうし」
「姫様は穢れてねぇと何度言わせるんです!? 俺、嫁にこないかと誘っているんですよ、この言葉は姫様にとってそこまで軽いもんですか!?」