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吼える月
第15章 手紙
サクはこんな男だったのだろうか。
いつも自分に従順で、泣きながら後を追ってきていたはずなのに、今では自分が翻弄されて泣きそうだ。
だけど、嫌ではなかった。
サクとこうしてじゃれあうように触れあっているのは。
だけどもう少し……。
甘え……というより、もう少し女として扱ってくれても……。
もっとこう、睦み合いのような――。
――それまで、俺は自分の心は姫様にぶつけません。
ぶつけられたら、自分はどうなるだろう。
この物足りなさが払拭されるのだろうか。
「ああ、姫様。これだけでも、すげぇ幸せ……」
耳もとのサクの感嘆の声が、睦み言のように思えて、ユウナの身体が熱くなる。衣擦れの音が大きくなると、どきりとする。
サクの……臣下を超えた言葉や態度が、嫌ではなかった。
むしろ身体が熱くなり、もっと"男"のサクを見たいと思う。
――俺を……選んで欲しかったです。俺は、姫様の夫に……選ばれたかった……っ。姫様を幸せにすると……あの場で俺が誓いたかった。
息苦しいほど、ドキドキが止まらない。
胸が……なにか壊れる前兆のように不可解な音をたてるのに、それは決して不快ではなく。
未知なるこの心の動きは、変貌したサクに抱かれたということを知った時ともまた違い、心がときめくような動きがあった。
――……俺、姫様が好きです。嫁にしたい気持ちは、変わっていません。昔からずっと……。
これはなんだろう。
サクとどうこうなると考えたことはなかったのに、まるで待ち望んでいた時が到来したかのような、妙な興奮めいた……満たされたような心地がある。
無性に心が熱くなり、どんな愛撫よりも、身体が甘く疼いてくる……。
「姫様、俺……本当に姫様のこと――……」
ああ、サク。
このやるせなさそうな声に、あたしおかしくなりそうだ。
サク。
サク。
「……っ」
そしてサクから、すぅと寝息が聞こえた。