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吼える月
第15章 手紙
「………」
「すぅ、すぅ」
「………」
「すぅ、すぅ」
「お兄さん? ちょっとお兄さん?」
息を詰めながら、鼓動を高鳴らせてサクの言葉を待っていたのに、サクはくぅくぅと安らかな寝息をたてるだけ。
「え? サク? 本気で寝ちゃったの? ここで放置?」
ユウナと頬をくっつけたまま、片手を彼女の腰に巻き付かせるようにして、微妙な距離感での抱擁具合にて眠りに落ちている。
「………」
「すぅ、すぅ」
サクは――。
涙を流すほど心痛しながらも、大いに活躍した。
……疲れているのはわかる。頑張ったのもわかる。
「………」
「すぅ、すぅ」
だけど、なんだろう。
この規則正しい安らかな寝息を聞いていると、無性にいらつく。
――ああ、姫様。これだけでも、すげぇ幸せ……。
自分を中途半端に放置して、ひとり勝手に幸せそうに寝ていると思えば、思いきりその頬をぺちぺち叩いて、叩き起こしたい気がする。
――姫様、俺……本当に姫様のこと――……。
そして放たれる、ユウナの殺気。
「……えいっ、起きろ!! ちゃんと言い切ってから寝るのよ」
しかし上げられたその手は、さっと動いたサクの手に抑えられ、振り上げようとした足は、さっと動いたサクの足に挟まれた。
両手両足をがっちり固められたのはものの数秒、ユウナは動けなくなる。
……しかも、寝息をたてたサクの頬はくっついたままだ。
「……くっ、寝ながらも瞬時に防御の姿勢になれるとは、さすがは武人。無意識にあたしの手足を封じて寝るなんて。だけどあたしには……」
ユウナは頭を振って、横からサクを頭突きする。
「……ってぇ」
「は、声? サク目が覚めた!?」
「すぅ、すぅ」
「なんだ眠ったままか。随分と熟睡しちゃってるのね。よし、これで頭は動けるようになったわ。手も、サク側の方はなんとか。この調子で足も……ん? なにかしらこの堅いの。寝台の支木でも飛び出したとか!? それは危ないわ。サクが怪我しちゃうから押し込めなきゃ」
「お……ぅっ……」
「サク!? 突然震えだしたわ。もしかして刺さっちゃっているのかしら。そしたら刺激しないように、ゆっくりと丁寧に動かした方がいいわね」
「は……ぅ…っ!?」