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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
・‥…━━━★゚+
「……ぁっ、はぁっ、はっ……」
逞しい身体は絶えず上下に揺れ、薄い唇からは短い息が漏れる。
言葉にならぬその声音は、どこか悲痛なもので。
時折苦しげにぎゅっと細められる漆黒の瞳は、なにかを振り切ろうとするかのように切なげな色を宿していた。
濡れた黒髪は精悍な首筋に張り付き、その髪先から滴る雫は、しなやかにのけぞる身体に伝い落ちる。
「はっ、はっ……もうこれ以上は……俺……っ」
サクの喉もとが、耐えきれぬというようにぐっと反り返った瞬間――。
『腑抜けめ。あと3000回追加だ』
「この鬼――っ!! 今5000回終えたばかりだぞ!?」
『神獣たる我に鬼とはなんたるぞ!! 5000回追加をせよ。はよ。疾く!!』
ぱしぱしぱし。
床に潰れたサクの頭の上、ぷっくりと腹を膨らませた白イタチが、長い尻尾でサクの頭をぱしぱし叩きながら言った。
「くっそ~。親父よりひでぇ……」
ぱしぱしぱし。
『文句を言うな。玄武の力を扱える肉体にはこれだけの鍛錬でもまだ甘い。小僧の父はこれしきの鍛錬、根を上げずに自主的に1日1万していたぞ? それで父を超える武神将になれると思うか、この!!』
「――い、いちまっ!?」
ぱしぱしぱし。
「そうじゃ。あの男はきちんとやることはやっておったのじゃ。だからあの男の、妻への溺れ具合は胸悪く思うても我は黙っておった。その点小僧はどうだ!? 我の食事中に、頭の中に花を咲かせた腐抜けた顔で、姫になにをしようとしてたのじゃ!? 色恋沙汰で坂道を転げ落ちるようであれば、我は小僧との契約を破……」
サクは、慌てて拳立てを再開させた。
その斜め上方では、ユウナが気持ちよさそうに眠っている。
しかもサクの外套を抱きしめながら熟睡中だ。