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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
『我は小僧の父に、お前をびしばし鍛えると約束をしたのだ。だから我を恨むなど筋違い。よいな、我に文句を言うくらいなら、父を超える武神将となり、我はおろか、姫をも虜にしてしまうような男になってから言うのだ』
「なってやる。絶対すぐになってやるからなっ!!」
文句を言いつつも、素直に従うのがサクである。
『……ほう、なんだ小僧、その自信は。妙に生き生きとしておるが。我を召喚した時のあの刹那的な小僧に比べると、随分……』
「そりゃあ……俺は。親父のすべてと引き替えにして生きている。生かせて貰っている。親父から貰ったこの命――、親父に背中を押されて、今までうじうじと躊躇していた現状を打破して、親父に恥じぬように堂々と…また新たな一歩を踏み出したんだ」
そう語るサクは嬉しそうに。
何千回と繰り返されている拳立ての形は乱れなどなく、先ほどまでの体力の翳りも窺えない。サクの身体が、活力に満ちていた。
その極端すぎる変化に、サクの頭に腕組みをして座すイタチは、くりくりと目を動かして考えた。
『……我の食事中になにかあったのか? ふむ……。欲求不満でただ姫に盛っていただけではないとすれば……。まさやその前に、これから情勢がどうなるかわからぬというこの旅路の始め、心身共に気を引き締めねばならぬという緊張感漂うこの大切な時に、嫁になってくれなどとか姫に求婚したわけではあるまいしな』
どきっ。
サクの心臓が不穏に跳ねた。
そして――。
『ははは。そんな大層なことを言えるだけの器でもなければ、そんな時機でもないことくらい、いかに小僧が馬鹿でも状況が読めるはずだ。読めぬ奴なら、武神将にはさせんわ。我が仮にも、小僧の未来に期待して武神将となることを認めてやったのだ、我の目が腐っていたなどということはあるまいて」
サクの拳立てが、ふにゃりと床に崩れた。