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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
心がざわついたユウナは、サクに言った。
自分にも、未来を誓いあったサクの想い人を紹介してくれと。紹介がないのは、水臭いではないかと。
……そこから、共通の明るい話に持ち込めるはずだった。昔のように、照れるサクをいじれるはずだった。
だがサクは、やるせなさそうに笑ってそれを拒んだ。
――そんなもんはいませんよ。簡単にはいかないんですよ、ひとの心は。
火のない処に噂は立たぬ――。
それが真実であれ虚偽であれ、噂がたつということは、ユウナの知らぬところでサクが親しくしている異性がいるのは事実のはずなのだ。
その存在すら、サクは己の情報を開示しない。
サクについてなんでも知っているはずの自分が、実はサクのことについてなにも知らなかった現実を知り、胸が軋んだ音を立てる。
サクが……離れていく……?
一緒にいるために、サクを護衛のままでいさせたのに……?
――サクに女? 僕は聞いてないけど……気になるの、ユウナ。
サクが否定しリュカの顔がなにか暗くなっていくのなら、ユウナはこの話題についてそれ以上は追及することが出来なくなった。
サクが遠くなれば、リュカとの距離が縮まる。
サクが素っ気なくなれば、リュカは情熱的になる。
リュカの男としての接近は、この1年で増えた。
抱擁だけではなく、美女でも通るその美麗な面差しに男の艶めきを取り混ぜて、ユウナの肌に唇を寄せたがった。
照れくさいなりにもそれがリュカなりの愛情表現だと受け入れれば、リュカの手が服の上からユウナの胸の頂きに触れ、
――ユウナ……。
乱れた熱い吐息を零す。
そして艶めかしい唇をユウナの唇に重ねようと、ぐっと力を込めて顔を近づけさせるのに驚いて、リュカの胸を手で押しやって拒めば、リュカは辛そうな顔をして、儚げに笑うのだ。
――ごめん。婚儀が待ちきれなくて。
婚儀は明日だ――。
――僕が君の部屋に忍び込めれるように、本殿の鍵を開けていてくれないか?
それを待てないというリュカの顔は、どこか切迫めいたものがあったのを思い出す。
まるで今夜だから、そうしなければいけないという……頑ななる責務に追われているかのように。