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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
愛し合う男女がする行為がいかなるものか、ユウナにも知識はある。
初夜を待てないというリュカの情熱は嬉しくは思うけれど、それでもリュカに抱かれるということに現実味を覚えない。
それどころか、ユウナが好きな柔らかな笑みを消して、見知らぬ妖しげな男に豹変するのを、恐く思ってしまうのだ。
婚儀は明日だというのに。
これからはリュカを夫として、そして閨を共にするというのに。
リュカのことは変わらず好きだ。
会えない時は、いまだに寂しくてたまらない。
会えた時は、本当に嬉しくてたまらない。
リュカの笑みに心がきゅっと鳴る。
だがそれは、リュカと出会ってから今までずっとそうであったのだ。
だからサクを連れて、リュカがよくいる書庫に頻繁に会いに行ったのだ。
――恋をしているんです。……リュカに。
いつぞやのサクの言葉が蘇る。
言葉の内容というよりも、自分から離れ行こうとしているようなサクの、その声音に……胸がきゅっと締め付けられた。
自分は――なにか、婚儀に迷いがあるのだろうか。
ユウナは考え込んだ。
リュカを受け入れることに不安があるのだろうか。
才知溢れる美貌の智将。
あんなに優しい笑みを向けてくれ続けているというのに。
リュカから、愛を感じているというのに。
リュカへの不安や迷いが、不吉さに満ちた月の影響であるのなら、きっとその不安を払拭できるのはリュカ本人しかいない。
もしかするとリュカも、リュカを拒む理由としてユウナのそうした迷いのようなものを感じるからこそ、婚儀の前に想いを確認し合うことを望んでいるのかもしれない――。
だとしたら、ユウナが取るべき術はひとつ。
鍵を開けよう――。
不吉な夜に、すべての不安を捨てきるために。
明日の婚儀を、心からの笑顔でリュカと迎えるために。
そうすればきっと……サクもまた戻ってきてくれるから。
また笑ってくれるから。
――ああ。やったな、僕達!
――すげぇな、姫様とリュカがいれば、無敵だっ!
――ええ。無敵よ、あたし達は!!
また三人、昔のように笑って過ごせるようになるから――。