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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「きゃああああ、いるならいるって早く言ってよ!!」
「そりゃいますよ。無職になっても身体には護衛役がこびりついてますから。……っても、まぁ……己の心と闘う力を養い、男っぷりをあげるために、こうしてずっと拳立てをさせられて……いやいや、最後は自主的にしていたんですがね」
サクは全身びっしょりと汗をかいており、心なしかその顔は疲れている。
気怠げな表情で濡れた髪を持つサクは、情事の最中のような男の艶を放っていた。
だが違和感あるのは、その頭にある亀。
その亀は顔を少し上げ、会釈しているように見えた。
どう見ても、ネズミを食べるような獰猛な亀には思えない。
「聞いてなかったわよね、あたしの独り言、聞こえてなかったわよね!?」
「ええ、まるで聞こえてませんでした。だから安心して、俺を洗浄係や治療係に任命して下さい。俺、腕を磨きますから」
「きゃああああ、聞いていたんじゃないの!! あっち行ってぇぇぇぇっ!!」
ユウナが枕を投付けた先は、笑い声を残しただけで……誰もいなかった。