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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
 
 

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 夕餉を終えた後、湯浴みをすませる。

 しっかりと、体の隅々まで洗った。


 ……少しでも、リュカに綺麗と思われるように。


 そして――。

 密やかに本殿の鍵を開け、私室に戻ると……わけもなく手で埃を払った寝台に座り、ただひたすらリュカを待つ。


 妙に静けさを感じるのは、あれからサクが現れなかったせいか。

 それとも今夜が不吉な夜だからか。


 ……いや、緊張しすぎているからだろう。
 

 リュカは夜のいつに来るのか指定はしていなかった。

 待つ時間がやけに長く感じる。

 ユウナはリュカとお揃いの指輪を手で弄くりながら、けたたましく鳴り響く心臓が、口から出てきそうな妙な緊迫感を、必死に堪え忍んでいた。

 湯浴みをしたのに、汗が吹き出ている。

 なにか気分を変えねば、倒れてしまいそうだ……。



「ああ、そうだわ」



 リュカが部屋に来るその前に――。


 嫁ぐ前日なのだから、ユウナは父に挨拶をしようと思い立った。


「なんでこんな肝心なこと、忘れていたのかしら」


 1年前のリュカとの婚姻が決まった時から、会話らしい会話が出来ぬほど、父は今日の赤き満月のために忙殺されているのはわかっている。


 今夜は、祠官にとっては一番の正念場だということもわかっている。



 だけど、ただひとこと伝えたい。



 "今まで育ててくれてありがとう"、と。


 "お父様が大好きです"、と。



 ユウナは寝台から立ち上がり、私室の戸を開けた。




 ……それが、惨劇の幕開けになるとも知らずに。


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