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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
5万の鍛錬を自慢したいのなら、どうして自分にしないのだろう。
自分との仲を邪魔……と詰っているように思えるが、のそのそ動くだけでなにも喋らぬ亀になにができるというのか。
しかも自分への想いを、亀に切々と語っていたように思うが、どうして本人ではなく、亀に語るのだろう。
「サク……頭大丈夫かしら……」
……と、密かに心配な眼差しを向けられていることを、サクは知らない。
船には簡易的に、海水を利用する浴室がある。
とはいっても浴槽はなく、ただ身体に暖かな湯をかけるだけの空間だ。
サクが汗を流してすっきりとして現われ、ようやくユウナは部屋の外に出て、船を探索することが出来た。
「よぅ、兄ちゃん。自慢の嫁さんと、もうしっぽり初夜を過ごさなくてもいいのかい? 随分と長いこと頑張ってたなぁ?」
「お姉ちゃん、腰は大丈夫かい? かなり深いところを攻められたんだろう?」
「これから十ヶ月後、子供が楽しみだなぁ。何人生まれてくるんだろう、あはははは」
なにやら陽気な男達がこぞって気軽にサクとユウナに声をかけてくる。
ここまで気安く声をかけられるほどの交流はなかったユウナが、さらに"嫁"を初めとした意味不明の言葉にきょとんとしていると、サクはうるさそうに目を細め、ユウナの背後で懸命に、しっしっと手で男達を追い払う素振りを見せていた。
それを見て男達は、豪快に笑った。
見れば酒も混ざっている。
「あ、あっちに行きましょう、姫様。奴らは酔っ払い、そしてちょっと勘違いしているようで、あははは、俺と姫様が……よ、よよよ……」
「まさか、またよよよ嫁!?」
「はい、そうらしいです。そういういい雰囲気があったんですかね、あはははは」
サクの目が泳いでいた。