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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
食糧をわけて貰うために必要なのは金だけではない。
この船の中では、自分達以外はすべて同郷の仲間。
その輪に入らぬ限りは、食事だけではなく色々と情報を得られない。
そして――この船には女子供がいなかった。
誰もが出稼ぎに出ていた商人で、そこそこ年を取っている。
男所帯に、女はユウナひとり。
狼の中に子羊一匹など、たとえ殺気が放たれていなくとも、別の意味で危険極まりない環境だった。
その牽制のためと、親睦を深めるために、男同士が打ち解ける会話の話題として適当なのは、女の話だということは、警備兵育ちのサクはわかっていた。
警備兵時代、誰もが悦ぶのは女との色事のこと。
女の落とし方、恋の相談――。
いつもサクは、皆からからかわれていたものだ。
――姫と今日はうまくいったかい? 困ったことがあれば、皆で相談に乗ってやるよ。
同時に、確か蒼陵国は、人妻に手を出してはいけないという掟があると、かつて警備兵達が噂していたことを思い出したサクは、自ら新婚なのだと嘯いた。
そして初夜に緊張しすぎて自信がないから、知恵を貸してくれと持ちかければ、気のいい連中達は仲間に迎え入れ……、サクは瞬く間にその輪に入ることに成功した。
僅かに室外に出ている間に、精力をつけろと粥の具が一番おいしそうなところまで、分けて貰えるほど親睦を深めていたのだった。
……言えやしない。
妄想を織り交ぜて、虚しくも惚気自慢をしていたことなど。
絶対言えない。
男達から、初夜の心得やら女の悦ばせ方など、経験がものをいう……鼻血もののいらぬ知恵をつけられていたことなど。
だから一層、我武者羅に鍛錬に打ち込んでいられた理由を。