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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「笑い事じゃないでしょう? なんでそこを否定しないの、サク。近衛兵の時のように、一過性では終われないわよ? このままだと、船が蒼陵に到着する……後5日間ぐらいはずっと、あたし達……」
狼狽するユウナを見て、サクは伏し目がちにくっと唇を噛むと、ユウナの片手を手に入り、黙って歩く。
「サク、ちょ……どこに行くの、サク!?」
そして――。
サクが立ち止まったのは、大きな横帆の下。船縁近く。
広大な海原が望める、人がいない場所――。
「俺はいいですよ、別に。姫様が嫁のままで」
「え……?」
くるりとユウナに振り返り、不意にサクは続きを口にした。
真摯な面持ちだった。
「だから、否定しなかったんです。……したくなかったんです」
「……」
「別にいいじゃないですか。嘘でも誰も咎める者もいない」
「……」
「船の間だけでいい。少し……夢を見させて貰えませんか?」
哀しげに揺れる漆黒の瞳。
ぎゅっと力を込めて握られる手。
「それも、駄目ですか?」
ユウナの心が、きゅうと切なく疼く。
ユウナはなにも言えず、肯定する代わりに……躊躇いがちに微笑むと、サクの顔が静かに綻び、そしてくいと腕を引くと……後ろからユウナを抱きしめた。