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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「サ、サク!?」
「この場所から見るのが、穴場らしいです。ただ風がひどいようなので、俺が風よけになります」
目の前には――。
無限の広がりを見せる、蒼茫たる大海。
そして澄み渡った蒼天。
「うっわぁぁぁぁぁ」
その絶景さに、ユウナが思わず感嘆の声を上げれば、サクは嬉しそうにくすりと微笑んだ。
強く吹く潮風が、しばらく風景に魅入るふたりを揺らした。
「……姫様。昔から、空は姫様と一緒に見てきましたよね。外からでも室内からでも。
そして今俺達の前には、黒陵の山など……一切隔てるものがない海がある。俺達、初めての景色を、こうやって一緒に見ているんです。太陽にきらきら輝いて……眩しいほどに綺麗だ」
サクは、ユウナの頭に愛おしそうに頬ずりをしながら、掠れた声で囁く。
「凄く綺麗だ……」
ユウナは、頭上にサクの熱を感じ、鼓動を早めた。
「あまりに綺麗過ぎて、だけど……あまりに手が届かなすぎて、……切なくなる。こんなに……近くに見えるのに、遠くて……。
どうすれば、手に入れることができるのだろう……。俺の手が届かないのなら、どうすれば、俺のもとに来てくれるのだろう。どうすれば、俺のところに来たいと思ってくれるのだろう」
それはなにに対してなのか、わざとぼかして。
「俺のものに……なればいいのに。
俺は……ずっとここにいる」
再び、ユウナの胸がきゅんと音をたてて、甘く疼く。
「俺だけのものに……してぇ……」
絞り出すような声を吐いた後、サクはそれ以上……口を開かなかった。