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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
ジウは普段から厳めしい顔をしているのに、闘いの時はその顔がさらに獣じみ、気合いのかけ声も凄まじい。餓鬼の"きぇぇぇぇ"並の奇声を上げて、獰猛な戦い方をする。
正直、武闘大会で相対した時、サクの顔が引き攣ったほどだ。
その息子は逆に弱々しく、まるで食われる寸前の怯えた小動物のような顔をしていて。……それが普通の顔だというから、本気で怯えればどれほどの顔になるのか。
つくづく……色男と名高いハンの息子に産まれてよかったと思うサクだった。なんとか見れる顔に産んでくれた母親にも感謝する。
そんなサクの心を知らずに、商人達は青龍の話題に盛り上がっていた。
「青龍ね……。特産品の模様以外、実際にはぴんとこないな。その点黒陵では、民間でも亀が随分と崇められていたが。蒼陵にそういう信心深い奴、いるんだろうか」
「青龍って、あの蛇のことか?」
「蛇じゃないだろう、ミミズだ」
「ああ、畑の神様だったか?」
「おいおい、俺らの国には畑はないぞ」
「だったら、青龍は水の神だったのか」
「そうだ、そうだ。蒼陵は海の国だから。海からざっぷーんと出てくるんだろうさ、格好よく」
「水の神は、黒陵の玄武だ。捏造するなよ」
呆れたようなサクの言葉に、商人達は腕を組みながら、ならばなんの神なのかとうんうん唸りながら考え始めた。
ここまで神獣が民に馴染んでいないとは想像していなかった。
蒼陵には青龍のことは、民まで知れ渡っていないのか。
それとも、知れ渡っている黒陵だけが特殊なのか。
青龍――。
サクにも、よくわからぬ神獣だった。
龍というもの自体、亀のように街でもよく見かける動物ではないために、どんな風貌をしているのか想像出来ない。