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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
心臓が――鋭い刃で抉られたように、ずきずきと痛む。
ユウナからリュカの影は消えていないのだ。
なかったことにしようとすればするほど、恐らくユウナの深層心理に深く刻まれて消えぬ"特別"になりゆくリュカ。
サクに対する"特別"同様、リュカもまた……"特別"なのだとサクは思う。それも、自分が望んだ"特別"にほど近い場所に、リュカはいる――。
やり過ごしたふりをしていても、忘れ去ったふりをしていても。
こうしてふと思い出される度に、本能がむき出される果ての手前、リュカの名を二度も告げたユウナに、心ごとぎりぎりと……棘がついた茨で締め付けられているように痛むのだ。
悲しみと嫉妬で狂いそうになる。
ユウナの傍にいてユウナの肌に直接触れている自分を通り抜け、自分の幸せを願い求めてくれたあの時間をなかったことにして。
一瞬でユウナの「心」を独占できるリュカが、妬ましくて。
そして、ひたすら……羨ましくて――。
ユウナの中の、リュカの存在は大きすぎた。
サクにとってもリュカの存在は大きかったから。
国を棄て、両親を見殺しにしながら国外に逃げた自分もまた、それでもリュカの存在を消し去ることが出来ずにいるのだから。
だから、ユウナのリュカへ対する気持ちが、簡単に薄らぐことがないということはよくよくわかってはいるのだ。
それでも――。
踏み出したいと思った。