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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
懇願され、ユウナの心は複雑だった。
武神将はその生涯を祠官に捧げるために儀式を必要とするということは、ハンから世間話のように聞いていた。
一度それが成功になされれば、祠官と武神将の関係は、血よりも濃い…魂で結ばれたかのような結束力を持ち、どちらかが死ぬか代替わりしない限り、永遠に影響し続けるものだと。
もしも武神将が主人と決めた祠官以外の者に仕官したいと思ったり、或いは仕官に不信感を抱けば、玄武の力が武神将の命を脅かすと。
――ハンが、お父様以外の別国の祠官や、祠官以外のひとに仕官したりはできるものなの?
――"忠誠の儀"は、その武神将と祠官が祀る神獣が共通でなければならねぇんだよ、姫さん。だから俺が玄武以外の祠官に仕えることも、玄武の力がねぇ者に仕えることも、たとえ儀式を執り行い強行的にしようとしても、俺を武神将と認めた神獣……玄武によって儀式は阻まれるだろう。まぁ玄武が認めれば、"例外"もありかもしれねぇが、前例はねぇ。
――だったらもしも武神将や祠官が、忠誠の儀式をしたくなかったり、儀式が不成功に終わったらどうなるの?
――祠官が統治するその国には、神獣の力で鎮護する武神将がいない。ただそれだけだ。これもまた前例はいねぇ。なんだかんだとどの国の武神将も、遅かれ早かれ儀式は成功させているな。
サクが自分と"忠誠の儀"をしたいと言う――。
それに対する不安要素は幾つもあった。
まず、自分は祠官ではない。祠官の血を引いただけのただの小娘だ。玄武の力を感じることも、玄武の祀り方すらもわからないから、儀式が成功するはずがない。なにより玄武が認めぬだろう。