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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
サクが武神将になったというのなら、彼は祠官に仕えねばならないのだ。つまり今で言えば、……その地位に一番近いところにいるリュカに。
サクは生涯命を捧げて仕えたい主に、リュカを廃し自分を据えた。
そのサクの心がやりきれない。
一年前にはサクにはその覚悟があった。
リュカだから仕えたいという意志で、サクはリュカに臣下の礼をとって見せたのだ。……今のように。
父を殺して国を奪い取った…今のリュカには、サクは仕えないだろう。
しかしリュカはきっとサクの力が欲しいはずだ。いつかきっと、リュカはサクを取りにくる気がする。……国を統べる祠官の、権勢を誇る道具として。
その時、確かにサクが他と既に儀式を成功していれば、サクはリュカの道具にはならない。
だが、自分としようとしている儀式が不成功に終えた時、サクはどうするのか。
それでもリュカは嫌だと拒み続けるのだろうか。
誰よりも強い武神将としての素質を持ちながら、主に恵まれなかったばかりに、彼は名ばかりの武神将として、裏舞台で朽ちていくのだろうか。
――俺は……親父が恥じねぇ男になってみせる。親父あっての息子だと、あの親父を超えた武神将だと、絶対他から言わせてみせる。
サクは……ハンのためにも燻らせてはならない。
ハンだってそんなことを望んではいまい。
当惑に揺れるユウナを見て、サクは再び口にした。
「俺の命を、姫様に預けたいんです。俺のすべてを姫様で縛って欲しいんです。祠官へ生涯絶対服従を誓う、武神将として」
サクの決意が固そうにみればこそ、ユウナはわからなくなってくる。
少し前に……ユウナはサクから嫁にしたいと、好きだと言われたばかりだ。それと同じ日に、今度は臣下になりたいから、この先無効に出来ない……この世で一番強固な主従関係を結べと言う。
サクが自分に真に望むのは、一体何なのか。
ユウナにとってみれば、嫁=臣下にはならない。
サクは、女としての自分より主としての自分を求めているのだろうか。
……あのサクの言葉は反故(ほご)にされた、ということだろうか。
忘れて欲しいから、主になれ……と?