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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
  
 

 どうして自分なのだろう。

 どうしてそこまで尽くそうとしてくれるのだろう。


 どうしてそこまでできるのか。


 これが愛というのなら、自分はそんなものをリュカに見せたことはない。

 ただ穏やかなだけだった。いないことが寂しいだけだった。

 
 愛とはなに?


 サクから受けるもの。

 リュカへ感じていたもの。


 その相違があまりに顕著で、混乱してくる。


 同時に、サクのこの懇願に心が痛かった。


 自分はなにも与えることができないのに。

 それどころかサクから大切なものを奪い、辛い目に合わせてばかりなのに、どうしてさらにサクは自分を追い込もうとするのか。

 もっと自由で、もっと光がある場所を望んでもいいはずだ。


 どうしてその一生を、その命を。

 自分に捧げるなど、今から早々に結論を出してしまっているのか。


「どうか俺と――」


 はらりと、ユウナから涙が零れた。


 はらはら、はらはら。


 ユウナの頬を伝い落ち、頭を垂らしていたサクの頭に落ちる。

 そこでサクは顔を上げた。


「な、姫様……!? そこまで俺と主従関係結ぶのが嫌なんですか!?」


 驚嘆したサクは立ち上がり、慌ててユウナの目許の涙を指で拭う。


「違う、違う……嫌とかそういうのじゃなくて……」


 胸が熱い――。


 言葉が、ひりひりとした喉奥から出て来ない。

 
 凍っていた時の流れが、凍っていた心の内部が、溶かされていくようだ。

 まるで厳しい冬期が終わり、春になったかのように。


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