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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
――ちょっと待ってて下さいね。儀式に、神獣を象る装飾品が必要らしいんで、直接玄武を呼んできます。本人なら、あいつも文句はねぇでしょう。きっとネズミ追って走り回っていると思うんで、探しに行ってきます。
ハンの笑えない悪戯を受けたその後――。
しばらくはその衝撃度の激しさにふらふらになり、扉を開けるまでの短い距離に何度も転びそうになりながらも、サクは儀式開始の準備に動き出した。
――い、いってらっしゃい?
激励と不安を半々に混ぜて見送ろうとしたユウナの言葉に、サクはぴたりと足を止め、
――……くっ、本気に嫁みてぇ……っ。お袋にこう言われて、朝からいちゃいちゃ始めて家から出て行きたがらなかった親父の気持ちがよくわかる。くそっ、俺やばい。顔が緩みっぱなし!! こんなんじゃいけねぇ、こんなんじゃいけねぇぞ!! 俺は親父を超えるんだ!!
なにやらぶつぶつ唱えて、
――いってきます!!
そう、決意に硬くさせた顔をユウナに向けた。
そんなサクに、ユウナはにこりと笑って言った。
――ひとりは寂しいから、早く帰ってきてね?
――……っ!?
途端、男らしく整ったサクの顔が赤く染まって緩む。その頬を、無言のままでパンパンと自分で強く手ではたきながら、さらに真っ赤になった頬をさらしつつも、サクは足取り軽そうに上機嫌で部屋から飛び出した。
「………。サク、大丈夫かしら。玄武を呼ぶって……まさかあの子亀ちゃんのこと? まあ玄武は亀だけど……。ネズミを食べる不思議な亀を神獣と混同して儀式に象徴的に使うなんて、玄武が聞いたら逆鱗に触れそう……」
その玄武は、悦び顔でネズミを追い回していることも知らず……。
「やっぱり、別なものを用意した方がいいと、サクに言ってこよう。この船の中にいるのは商人だったら、なにか玄武の土産品があるかもしれないし。さすがにイタ公ちゃんじゃちょっと、ねぇ……?」
ユウナはサクを追いかけ、部屋を出た。