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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
赤い月影が照らす、幻惑的に揺れる衛士の篝(かがり)火。
正門の外には、数十名の警備兵が屯している。
しんと静まり返った夜。
いつもと変わらぬ夜。
……ただ、月が赤いだけだ。
そう、その月色だけの変化しかない夜だった。
「明日……我らの姫は、婚礼か……」
どこからともなく、警備兵のひとりが悲しげにぽつりと呟いた。
「なんだお前、ユウナ姫に惚れていたのか?」
隣の男が、にやけながら笑いかける。
「馬鹿言え。孫ほどの年の差があるんだぞ? あの愛くるしい笑顔を向けられると、どんな悪戯でも笑って許したのはお前もじゃないか」
するとまた別の男が話に乗ってくる。
「ああ、思い出すなぁ。姫はハン様に懐いていたから、よく警備兵舎に来ては、俺達の鍛錬の真似事を真剣にし始めたり、俺達に混ざって組み手をしたがったり狩りに行きたがったり。初めて焼いたという黒焦げの焼き菓子を持ってきて無理矢理食わされたり、可愛かったなぁ……」
「ハン様が息子……今は隊長にまでなってるあのサクが、姫に振り回されているのを見て、俺達よくサクをからかって遊んだものだよな。ハン様と」
「ああ。俺ですら両手で持つのがやっとの大剣を、サクは片手で軽々と振り回していたっけな。まだあれ……5歳にもなってなかったはずなのに。それなのに姫にはされるがままで、それが幸せそうな顔で……思い出すな」
「そのサクが今では司令官であるハン様に次ぐ、我らの上官である隊長。まあ誰も反対もせず、むしろサクこそがふさわしいと大悦びをしていたけどよ。……って、サク隊長と呼ばなきゃまずいんじゃねぇか?」
「ああ、いいんだよ。本人が嫌がっているんだし、サクはサクだ」
「あははは。サクだものな。チビの時からの仲だものな、俺達」
「無駄口を叩くな」
突然の声に、男達は背筋を正した。