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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
 

「ふ、副隊長……っ」


 それは半袖から隆々とした筋肉質の二の腕を見せる、強面の男……シュウ=コンロンだった。

 短く刈られた黒い髪。額には飾り紐の装飾がなされており、年は今年22歳となるが、隊長の任にあるサクが信頼している部下でもあった。


「……なぁんてな」


 シュウは顰めっ面を途端に緩ませて、呵々と笑う。


「さあ、皆でサクの完全失恋を前祝いをしてやろうじゃないか!」


 その声に、どっと笑いが起こった。


 この上官を上官とも思わぬ態度は、ハンにも通じる。

 ハンの纏う空気が自由気儘であるからこそ、警備兵にもその気風が伝染しているのは否めぬところだ。

 だがそれはあくまで気風であり、彼らの実力は高い。ハンの容赦ないしごきに耐え抜いた者達なのだ。


 その中でもこのシュウの性格と腕を高く評価したハンが、隊長に任に命じたのだが、シュウがそれにはサクが相応しいと、皆の前で任を拒絶しサクを推挙したのであった。


――サクの腕と人望は全員が知るところ。ハン様不在の時も、サクは我らをきちんとまとめあげられています。俺達警備兵全員一致の意見として、是非サクこそ隊長に。我らはサクを上官に望んでいます。



「俺が姫だったら、間違いなくサクを選ぶんだけどなぁ」


 シュウは複雑そうな顔で苦笑する。


「リュカ様はどうも腹の底でなにを考えているかわからない、あの胡散臭い笑みが好きになれねぇ。現にきな臭い噂は昔から常にある。

裏ではかなりの数の反対派を闇に葬ったとか。祠官だけではなく、今の地位にのしあがるために、幼い頃から文官に体を餌に後ろ盾にならせたとのもっぱらの噂。まぁそんなことを口にしたら、こーんな目を吊り上げて怒れるサクが飛んでくるから、表だっては皆言えなかったけどよ。

リュカ様は悪しき噂の……言わば針のむしろの上に立ちながら、笑顔を見せての堂々たる振る舞い。余程の馬鹿でもなければ、普通はとっくに居たたまれずに去るはずだ。未知数過ぎて、どうも親しみが持てねぇ。

その点サクは、裏表なく信頼に足る器の大きさがある。俺としちゃあ、姫とはお似合いだと思うんだけどなぁ。姫も随分とサクを気に入っていたんだから」


「俺も同感です。俺は絶対、サクと姫が夫婦になるとばかり。ハン様だってそう思われていたはず」


 そして誰もがため息をつく。
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