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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
 

 ざくざく、ざくざく。


 父からもリュカからも褒められた長い髪は、偽りの色を宿して過去となる。


 いらない。

 こんなものに固執したくない。


 なにかを変えたかった。

 サクが鍛錬をして、ここ数日間で武神将になったように、自分もなにか変化が欲しかった。


 前を向いていくだけの。

 サクと共に前に歩んでいくための。
 

――ふふふ、ユウナは綺麗な髪だね。

――リュカの方が綺麗な髪じゃない。

――ユウナには負けるよ。ユウナの髪、僕は好きだ。


 今思えば、髪を大切にしようと思ったのは、リュカに好きだと言われたからだ。だとすれば、リュカが好きだというこの髪はもう必要ない。


「お姉さん、お姉さんっ!!」

「いらないもの。あたしにはいらない」


 いらないと思うのに、屑のように無残に散らばる髪を見たら、涙が止らなかった。 


 じくじくと胸が痛む。

 自分も恐らくは、リュカにとってはこの髪のようなものなのだろう。


 どうでもいいもの。

 必要ないもの。



――ああ。やったな、僕達!

――すげぇな、姫様とリュカがいれば、無敵だっ!

――ええ。無敵よ、あたし達は!!



 リュカ。



――ユウナを……必ず幸せにする。



 リュカ。



――僕はお前が……死ぬほど憎かった。

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