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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
 

「明日俺達の姫が結婚するのがサクだったら、俺……心の底から祝えるのに」

「サクの気持ち思えば、明日がなんだか憂鬱で……」

「俺も、心がぎゅっと締め付けられるようで」

「はぁ……っ。姫の婚儀が決まってからのサクの荒れっぷり。振り切ろうとするために、鍛錬量を半端じゃなく増やして、訓練と称して相手させられた俺達全員が、瀕死状態だったよな」

「ああ。かと思えば、いつも同じ廊から空を見上げてぽけっと放心していて。現実逃避なんだろうな……。でかい体を小さくして肩落としてよ……」

「俺、サクが……山の中で吼えるように泣きながら、大木を大剣で叩き切っていたのを見たことがある。悲痛だけど……鬼神のような迫力で」

「それでも姫の横ではその表情を隠していつも通りにしようとしているよな。その健気でいじらしい姿が、俺切なくて切なくて……」

「確かに姫に想いを告げなかったサクもサクだけど。ハン様に言われて俺達も焦れ焦れしながら、ただ傍観者に徹したけれど。端から見てわかりやすいのに、どうして姫はわからないんだろう。もしやわかっていてリュカ様を?」

「おいおい、それならサクが史上最高に不憫すぎるぞ?」


 そして誰もがまた、さらに大きなため息をついた。
 

「そういえば副隊長、サクを連れて揺籃の色街に行かれたんですよね?」


「ああ……まぁ。サクは嫌がったけどよ、女を癒やせるのは女だと言い聞かせて渋々。ここだけの話、姫がリュカ様と寄り添う日は、色街に駆け込むようになったらしい」


「しかしサクが、姫以外を抱いたのは心外というか……」

「まあ、男というのは、心と体はばらばらに行動できるものだが」


「それがな、女達曰く……あいつ最後まではしてねぇんだと。いざとなると、萎えて使いモンにならなくなっちまってるらしい。女達は色々してるらしいが、一切反応なし」



 全員が口を揃えて嘆いた。


「サク……まだ童貞なのか」

「おい、俺の話の核はそこじゃないだろ。それくらい、心だけではなく体にもすげぇ痛手を負っているんだということだ!」


「しかし副隊長。隊長に結婚が決まったという噂、聞いてますか?」


 警備兵のひとりが聞いた。
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