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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「離せよ、離せったらあっ!!」
遙か上方見上げれば、両手を縛り上げられた形にて、小さな足をじたばたしている幼い子供がいる。
肩までの髪。頭に白い羽の飾りの付いた――
「あの子、商人の……?」
「あれは、また別のガキんちょですが……。どうやら…女ですね」
ユウナを立たせながらも、片手をしっかりと繋いで離さないサクは、反対の手で陽光から遮るようにして目をそばめ、犯人の観察を始めた。
甲高い声が降ってくる。
「くそっ、極上の女だから高値で売りさばけると思ったのに。もしくは兄貴に献上しても喜ぶと思ったのに!!」
じたばた、じたばた。
「はぁ……こんなガキが人売りかよ……。世も末だ……」
サクは脱力したように項垂れた。
「なんだよ、猿っ!! あたいが可愛い女の子だからって、捕まえてなにをしようとしてるのさ!! 兄貴と家族思いのあたいがなんで捕まるんだよ。離せ、離せったら!!」
「……誰が猿だ、コラ!! キーキーキーキーうるせぇ猿はお前だろうが。言ってることがむちゃくちゃだ。誰が可愛い女の子だよ!!」
髪が……短い女の子。
共通の外貌――。
ユウナは少女に一方的な親近感を感じながら、ふたりのやりとりを聞いていた。
「黙れ、猿男!! 下から覗くな、この助平っ!! 幾らあたいが可愛かろうと、あんたにヤラれるなんてまっぴら御免だからね!?」
「誰が助平で誰が可愛いって!? 俺にだって女選ぶ権利ある!! んなこと言ってると、嫁の貰い手なくなるぞ!!」
「うるさいっ、あたいはモテモテなんだっ、猿なんて願い下げだっ!!」
「誰がお前なんぞ嫁にするかっ!! 自惚れるなこのメス小猿っ!!」
「くそっ、兄貴がいればお前なんて、お前なんて!! 離しやがれっ!!」
じたばた、じたばた。
"誰が可愛い女の子だよ"
"嫁の貰い手なくなるぞ"
"誰がお前なんぞ嫁にするか"
カチン。
ユウナのコメカミに、青筋が立った。