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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~ 
 

「ひぇぇぇぇ。死ぬかと思った……」


 着地したサクによってぽいと甲板の上に放り捨てられた少女は、余程恐ろしかったのか目を回しながらくたりとしている。

 そこに駆け付けたユウナは、少女の背中をさすりながら優しく声をかけた。


「大丈夫、お嬢ちゃん?」

「ふぇぇぇ、恐かったよ。この大猿男が野蛮で……」

「可哀想に……。こんな小さい女の子に……」


 気づけば女ふたりは、潤んだ目を向けあい、ひしと抱き合きあっており、


「ちょっと待てっ!! なんで俺が悪者なんですか!! 姫様、なんでそのチビと徒党組んで……姫様っ、なんですか俺に向けるその敵意なる目と、その"ぷい"っていうのは!! 姫様~」



 サクひとり疎外され、心なしか傷ついた顔をさらしている。



「お嬢……何気にあの猿回すのうまいね?」

「あらそう? 同じ"猿"だからかしらね」


 笑いながらも、じとりとした目をサクに向けて、ぷいと横を向くユウナ。


「姫様、だからなんで俺にそんなに冷たく……」



 そんな時である。


 バタバタバタと慌ただしい足音がしたのは。


 すっとサクの身体が動く。


 ユウナを庇うようにその前に立ちながら、長い刃先に固定した剣を手にして、サクは低い声で言った。


「姫様、静かにしていて下さい」


 警戒に満ちた切れ長の目が、音の主を特定するように忙しく動く。


 音はひとつではなく、時を追うにつれて増えていく。



 船内を駆け回る音。

 なにかを引き摺る音。


 ガタガタと荒い音も混ざってくる。


 
 船内は、騒騒しい音に包まれ始めた。



 そして――。


 サクが空を見上げれば、帆柱を利用するようにして多くの荷物が吊り上がり、それらが縄を介して船外に運び出されていた。
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