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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
「ああ、俺も聞いた。だけどどう見ても、サクに他の女に見向きできる余裕はねぇだろう? だから直接サクに聞いてみたんだ」
――姫様が結婚すれば……遠すぎる未来に、そうなるのかな。
「つまり、いるってことですか!? 姫以外に、嫁候補が!?」
「ん~、そこが微妙なんで、ハン様に聞いて見たんだ」
――家の近所にな、昔からサクを好きで仕方がねぇっていう少女がいるんだ。そいつがサクが振り向くまで、ばあさんになっても待っているってサクに言ったらしい。
「無理でしょう、サクが振り向くことは」
「だけどじゃあなんでサクは、"そうなるかも"なんて副隊長に?」
シュウは苦笑した。
「それがよ、ハン様曰く……その少女っていうのが、うちの姫にそっくりらしい。だから姫に甘いサクの態度が、今までその子に過剰な期待をもたせてしまったんだろうよ。サクとしちゃあ、その子の奥に姫を見ていただけなんだろうが。
ちなみにそいつは、サクが姫に片思いしている事実を知っていて、姫の身代わりでもいいと言っているらしい。そして向こうの親もサラ様も、結婚に乗り気で早くまとめたがっているようだ。
問題は、外部の干渉をサクが拒みきれるか、だな。姫の次にサクに近い年頃の女はその少女で、気心しれてるだけではなく、淑やかで性格もよくて妻としては申し分ないらしい」
その場の誰もが頭を抱えて悲痛な表情を見せた。
「うわ……」
「誰も幸せになれない予感ひしひし……」
「女として完璧でも、他の女の代理にされている時点で、その子の努力は報われないな」
「その子と結婚なんてすれば、サクは生涯、姫の残像に捕らわれ続けて、もがき苦しむだけだろ……」
「究極の現実逃避だな」
「だけどサクが姫以外の相手と結婚しないのなら、一生独身ってことになるぞ?」
「それは……ダメだろう。武神将の血筋が潰えてしまう。祠官命令が出て、それこそ馴染みない女と結婚させられるかもしれないぞ?」
「だったら、姫似の女選ぶ方が、サクには幸せか?」
「………」
誰も幸せだと思う者達はいなかった。
むしろ――。
「サク……どこまで不憫なんだよ……」
サクに強い好意を持てばこそ、士気が落ちてどんどん暗くなる部下であり仲間である警備兵達を見て、シュウは突如パンと両手を叩いた。