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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「お前達さ……。俺がお前ら殺すなり脅すなりして、お前らの船で蒼陵に着かせるという案はねぇわけ?」
「「ないね、だってお姉さん(お嬢)、そんなことさせないもの」」
「あのなぁ……姫様だってな、」
「させないわよ、サク。こんな可愛い子供達に。必要なのは力による圧力ではなく、なんで子供がこんなことをしているのかそれを聞いて更正させることでしょう?」
「そりゃ正論ですがね……」
昔からユウナは、曲がったことは嫌いだ。
「姫様の立派な正義感はわかるけれど、今そんなことを言ってられ……」
「テオン、イルヒ――っ!! 撤収だぞ、どこにいる――っ!?」
「やばい、シバが直接探しに来た!! こんなとこ見られたら、殺そうとするよ」
「いやいや、シバは兄貴に心酔してるから、お姉さんみたら絶対献上しようとするかも。どっちにしろ……命ないよ、猿」
サクの頭の中は、殺されるという選択肢はなかった。
武術では何人来ようが打ち勝てる自信はあった。
だが、勝てたとしても、問題なのはその後のことだ。
サクは船に初めて乗るため、動かし方がわからない。仮にこの船を死守して、盗人集団を追い出したところで、いつどこに漂着するのか不明。
力を使ったとしても、どの方角に蒼陵があるのかもわからない。さまよい続けるのならば、体力勝負となり分が悪い。
海原においては、武術で鍛え上げた身体は役立たずだということを、サクは悟っていた。
確実に蒼陵に入るのなら、このまま海に浮かんだままより、彼らについていった方がまだ可能性はある。
郷に入らば、郷に従え。
海に住まうものに、海上では逆らうな。
――サクの生存本能はそう結論を出したのだった。