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吼える月
第16章 船上 ~第2部 青龍の章~
「イルヒ――っ!! お前が遊ぶのに丁度いい亀も捕まえて船に積んでるぞ。テオンっ、出て来いっ!! 出航だ――っ!!」
「うわぁ、亀!? 亀見れるの!? 遊べるの!?」
「亀…亀だと!?」
喜ぶイルヒに反して、サクとユウナは驚愕の顔を見合わせ、そしてサクは落込んだように背中を丸めて座り込むと、独りごちた。
「あいつ……ネズミ食べ過ぎてまた寝てたな…」
神獣の矜持は強いくせに、簡単に人間の子供に捕まったイタ公。
それを天啓というのなら、自分達も捕まるしかない。
サクは、テオンに言った。
「お前達の住処は蒼陵か?」
「その手前だけどね。潮に乗れば、1日ほどの距離」
「ここから蒼陵に行くより、お前達の住処から向かった方が近いんだろう?」
「そりゃあ勿論。潮によってだけど、半日でつくよ」
「なんだ、だったら黒陵から思えば、随分と聞かされていた期間より短縮できる旅だったんだな」
「あはは、僕達にとって海は、安全を求めて遠回りする"観光"ではなく、移動手段だから。だからどこを通れば早く行き着くのか、蒼陵の民なら小さな時から皆わかっている」
海はどこまでも海にしか見えないサクにとって、陸がなく水だけで構成された海原から、確かなる厳選された航路を知るテオンら蒼陵の民は称賛に値した。
井の中の蛙――。
ハンが手紙に書いてあったことが、身に染みいる。
確かに蛙の自分は、大海をなにも知らない――。
ならばこそ、見知った者に安全に導いて貰うのが一番の得策なのだとサクは考える。今居るのは自分だけではない、ユウナもいるのだから――。