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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
「さて、お前達に質問だ。サクとリュカ様、ともに俺達がやっかむほどに女にモテる。リュカ様の家柄はよくわからない。サクは姫が懐いている武神将を父に持つ。だが姫はサクを選ばなかった。サクのどこがリュカ様に劣ると思う?」
シュウの言葉に、皆が顔を見合わせる。
「それは……なぁ?」
「うん、勿論それは……」
「やっぱお前らもそう思うよな、うんうん。俺もそう思う。一番の敗因は」
腕組みをしたシュウが、頷きながら言い切った。
「……悪すぎる頭だ! ……く、くくっ」
そういうと、彼は堪えきれないというように腹を抱えて笑い始める。
それに対して、否定の言葉が誰からも出てこない。それは皆が肯定しているのではなく……固まっていたのだ。突然現われた、副隊長の背後の影に。
「あははは、あいつは途方もない馬鹿だから……あはは、いいい!?」
笑い声が悲鳴に変わる。
「よう、副隊長さん。特別厳戒体制の重大任務中に、随分と楽しんでいるみたいだなあ。飲んでいるのか?」
シュウの背後に立つのは、黒髪で長身の男。
野生的に整った精悍な顔立ち。髪と同じ色の黒い双眸は、獲物を捕える肉食獣のような鋭さを宿しており、彼がただならぬ者であることを窺わせた。
「サ、サク……」
コメカミに青筋を浮き出した男、サクは……シュウの致命傷となりえる延髄を強く揉んでいた右手を、今度はその喉もとに巻き付け、ぐいと締め上げた。
「ぐぐぐ……サク、死ぬ、死ぬ……っ」
「こんなことぐれぇで根を上げないで下さいよぅ、せ・ん・ぱ・い?」
「ぐぇぇぇぇぇぇっ」
それを見ていた男達は冷や汗を垂らしながら、
「我々は任務に戻ります、隊長っ!!」
サクに向けて、頭を垂らした。
「どうしたんだ? 話を続ければいいじゃないか。随分と興味深い面白い話をしていたじゃないか。俺がどうとか、俺がどうとか、俺がどうとか」
両耳の白い牙の耳飾りを揺らしながら向けるその笑顔は、冷ややかすぎた。