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吼える月
第17章 船上2
「青龍殿に……大人の男女が攫われる、か……」
サクは、海原から続いてそうな蒼天を眺めて、今し方会話していたテオンとイルヒの言葉を思い出していた。
――昔はいいひとみたいだったけど、昔なんて関係ないよ。ジウが狂わなければ、あたい達は孤児になることも、こんなことをして生きていなくともよかったんだ。
「それを指示したのが、ジウ殿。そして蒼陵は年寄と子供、病人しか残らない……か」
――信じられないっていうのなら、お兄さん自分の目で確かめるといいよ。今いるのは、年寄ばっかりだから。
――あたい達にとって、ギル様……兄貴は神様だよ。青龍なんて知るもんか。あたい達を助けてくれたのは、神獣なんて架空の存在ではなく、兄貴だった。
――僕達は……死ぬ寸前だったところを、兄貴に助けられ……ひとつの家族として生きている。僕達にとって兄貴こそがすべてだ。
――盗んだものを異国に売り払ったお金で、助けられたあたい達は生きていられる。生きるための盗みだ。
「とにかく……目で見てみないことにはなんとも言えませんが、ジウ殿が変わったというのは、半年前ほど。その頃は武闘大会も開かれてませんし、親父も遠征ばかりで確かにジウ殿との直接的な交流はなかったですが……」
サクは――ユウナと共に、貨物船の大きな木箱の中にいる。
テオンとイルヒが乗り心地がいいように、横に倒した木箱の中には衣類など柔らかいものを詰め直してくれ、さらには外した蓋を目隠しを兼ねた仕切りにして、そう大して広くない船内をある程度は歩けるようにしてくれた。