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吼える月
第17章 船上2
テオンとイルヒは悪党ではない。
やっていることは犯罪で、サクに対して口はかなり悪いが、やけにユウナに懐くところを見れば、単に母の愛情に飢えているだけの、ただの子供の面影は色濃く残しているようだ。
だが物事の手際のよさを見れば、大人顔負けの器用さ。
――今じゃ、武神将や警備兵が僕達の敵さ。だけどつかまる僕達じゃないよ。
服から垣間見える傷だらけの身体や、意外にしっかりとついている筋肉を見れば、随分と修羅場をくぐり抜けてきたのだろうとサクは推測した。
それは女たるイルヒも同じく。
生きるために性別を棄てた……そんな悲哀じみたものを感じて、より一層心を痛めるユウナと同じく、ずっと猿猿と呼び続ける小憎たらしい存在を心底憎めない。
――必要なのは力による圧力ではなく、なんで子供がこんなことをしているのかそれを聞いて更正させることでしょう?
更正もなにも、それが生きる手段となっているのなら、たやすく変えられるものではない。変えねばならぬのは個々の態度ではなく、その元凶たるジウでしかない。
とにかくも蒼陵の現状を把握しなければ、なにも出来ない。
……ジウに支援を求める身であれば、その元凶と子供に恨まれるジウが現在どんな状態なのか、その思惑がなんなのか、直ちに見定めてなんとかせねばならない。
「そう思えば、4国間って本当に情報のやりとりがねぇですよね。同じ倭陵に住んで、神獣を崇めているというのに。ジウ殿がしたことは祠官も了承済みなのか? だったらなんで祠官命で発令がなされていないんだ?」
サクは、ひとつ憂うのだ。
あの赤き凶夜――。
リュカの凶事が、その時勃発したものではなく計画的であるのなら。
そしてあのゲイという謎めく男がその前から動きつつあったというのなら。
なにもあの夜に限らず、異変はあっていいはずで。
そして。
その異変が、黒陵に限定する必要があったのか――。
リュカが、ゲイに唆されたにしろ違うにしろ、黒陵の祠官の心臓を食らいその神獣の力の一部を手に入れたことは、果たしてリュカの最終目的だったのだろうか。
ハンは手紙で、リュカやゲイが動かぬことを危惧していた。
それが、やけに頭からこびりついて離れない。