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吼える月
第17章 船上2
「……姫様……?」
自分が目を離した僅かな間に、ユウナは変化を見せた。
リュカの名前に痛々しい反応を見せていたはずのユウナが、リュカの名前を冷静に呼んでいる――。
ユウナは髪を切り落とすことにより、心情的な変化を見せていた。
武神将のサクの人生を縛る以上、サクが忠誠を誓う相手に自分を選び、儀式をしたいと言ってくれた以上、……自分もサクが誇れる人間になりたいと目標を掲げた以上――、
今までのようにただ過去に囚われて、怯えて守られるだけの甘ったれた人間にはならぬように…その意識改革がなされていたのだった。
主人としての自覚。
サクに認められたいという欲求――。
それを知らずにサクは、ユウナが無理をしているのではと心を痛めた。
だから――。
「姫様……、俺の前で、強がらずとも結構です」
そう、笑うしか出来なかった。
「それと……気になさらないで結構です。俺は、覚悟してましたし」
「覚悟……? なんの?」
イルヒにさくさくと綺麗に切り揃えられたユウナの短い髪。
蓋の開いた木箱の中で、幸せを夢見ていた箱入娘の失った長い髪がやけに痛々しく感じてしまう。
サクは男だ。
長い髪はうっとうしいものでしかなく、切りたくてしかたがなかった。
だがユウナは女だ。
美しい女が大切にしていた長い髪。
テオンが切ったものではないにせよ、泣きながら…リュカの名を呼びながら髪を切ったというところに、女の儚い哀切さを感じてしまうのだった。