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吼える月
第17章 船上2
「儀式には……姫様からなにか頂かないといけないんです」
サクはユウナの前で屈み込み、手を伸ばすとユウナの短い髪を指で掬う。
「姫様の髪……なくなっちゃいましたしね。綺麗な髪だったのに」
サクの顔は、哀しげな翳りに覆われていた。
本音を言えば、髪などどうでもいい。
短くとも僅か貰えば、儀式は成り立つだろうことは、サクもわかっている。
ただ――。
やろうと意気込んでいた儀式の話を白紙に戻すには、物理的に不可能だからという言い訳が必要だった。
それは、傷ついた自分の心を納得させるためにも――。
「それにイタ公もここにはいないし。一体どこの……いっ!?」
首を捻って、遠く別の船を見つめたサクの手の甲を、ユウナは思いきり抓ったのだった。
そして――。
「髪、髪、髪っ!!」
「いぃぃぃぃぃっ!?」
「髪髪うるさいわよっ!! なんでそこまであたしの髪だけを……うう、ひっく、ぐすっ、うわあああんっ!!」
ユウナは泣き出してしまったのだった。
「ちょ、姫様!? 姫様っ!!」
「触らないでよ、どうせあたしなんて!! 髪だけが取り柄の、髪がなければ嫁になんてしたくないメス小猿なんでしょう!?」
「は!?」
やはり――。
短い髪だから、サクに嫌われ儀式も拒否されてしまった。
生涯を捧げる価値はないと、判断されてしまった。
しかも亀のせいにもされて誤魔化されようとは、口惜しくて仕方が無い。
……というオンナゴコロを、当然サクはわからず。
「サクがそんな男だと思わなかった!!」
「へ!?」
理不尽に責め立てられる理由に見当もつかないサクは、宥めようとするのだが、ユウナに触れようものなら、今度は噛みつかれる。
全身で激しく抵抗されただけで、恋する男としては消沈ものなのだ。