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吼える月
第17章 船上2
そしてサクは言う。
「――で、ここは仲直りとして、姫様に安心をして頂きたく」
「安心?」
にやりとサクは笑った。
「俺にとって姫様はいつまでも女であるということを、その身で感じて頂こうと。……俺唯一の取り柄である、舌と指で」
「え!?」
それまでの従順的姿勢を崩し、ユウナに覆い被さろうとするかのように、腰を伸ばして両手をユウナの横につけ、ユウナが逃げぬように囲い込む。
「姫様が"女"であるがために発情する"男"の本領、
発揮してもいいですか?」
無論、起きたことを笑い話にするための冗談だったのだが――。
「サク、サク、ちょ……サク、サクってば!!」
ユウナの動揺はサクが思った以上だった。
それは怖がっているのではなく、ただ焦っているだけなのだが、話題が話題なだけに、ユウナがサクを意識しすぎて無意識に四肢をばたばたと動かして暴れ始めてしまったのだ。
「ひ、姫様!? 冗談です、姫様っ!!」
しまった、怖がらせてしまったとサクが血相を変えて、慌てて弁解しながらユウナを落ち着かせようとその手を押さえようとした時。
なにかがユウナの袂から飛び出てきて、スコンとサクの頭にぶつかり、なにかどろりとしたものがサクの首に浴びせられた。
「いっ……てぇ……」
完全に不意打ちを食らったサクは、ユウナの横に転がり、その元凶を掴んでいた手を拡げた。
それは小瓶。
テオンから貰った――。
黄金色の中身が半分ほど減ってしまっていた。
それを持つ手がべとべとだった。
「なんで逆さ吊りにされてた時は落ちてこねぇでこんな時に飛び出てくるんだよっ!!」
「あ、もしかしてこのほつれた部分に入ってしまってのかも。逆さ吊りの時は手を上向きに足を押さえていたから」
サクは怪しいものではないかどうか、その手を舌で掬いとって見た。
甘い。
とにかく甘いこれは……蜂蜜。
「蜂蜜……だよな」
だが僅かに感じる独特の苦みが、なにかの記憶を蘇生させようとしていた。こうした類いのものを舐めたものがあるが、甘味に邪魔されてうまく思い出せない。
毒ではないのは間違いないのだが――。