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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
 

 サクとシュウは、警戒に満ちた顔を見合わせた。



「今の悲鳴はだれのだ!?」

「そんな……っ。この異常にばかでかい外壁を乗り越える侵入者などありえねぇし、今夜は祠官の結界が外部の者を一切弾いている。俺達が中に出入り出来るのは、祠官から配給されたこの"玄武の護り袋"を持っているからだ」


 それは警備兵数十人に渡された、赤い小さな袋。祠官自らの術が施された符が入っており、今夜の祠官の結界はその符を持たぬものだけに反応する。


「唯一の通用門たるここは、俺達が目を光らせて警備してんだ。今までに怪しい人影など、俺達は一切見ていなかったぞ!? 仮に侵入者がいたとしても、ここから中に行く方法は罠だらけの、あの凄惨すぎる結末しかねぇ迷路しかないんだ。それを抜けきることはありえねぇって!!」


 シュウは悲痛な声を上げた。


「だったら、屋敷内の警備兵に怪しい奴がいたのかもしれねぇ。シュウ俺、屋敷の中に行ってみる。お前は外に居てくれ。これは陽動の可能性もある。なにが攻めてくるのかわからない時に、お前の腕は役に立つ」

「わかった。サク、気をつけろよ。なにかあれば呼べよ」

「ああ。屋敷の内部に、俺が知る抜け道を使って入る。念のために迷路の方も怪しい痕跡がねぇか調べておいてくれ。もしかすると事前に罠が解除されていたのかもしれねぇ。頼むぞっ!!」


 そしてサクは走って行く。


「……なにが起きてんだ、屋敷の方で」


 そうシュウが強張った顔で、サクの背中が消えるのを見ていた時だった。


「――っ!?」


 突然目映い光が差し込んだのは。


 本能的に危機を察知したシュウは、咄嗟に光から逃れるように身を翻して宙に舞い、防御姿勢をとりながら地面に足を着けた。


 生温かい風が、不自然に吹く。


 光が消えた夜景。

 静けさはいつも通りだったが、明らかな異変があった。


 それまで地面になかった物体が、ごろごろと散乱している。


 それは、今までシュウと話をしていた――


「え!?」


 警備兵達の頭だった。

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