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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~


 顔になにかが落ちた。

 雨かと思い、頬を指で拭ったシュウは、その指を見て目を細めた。



「赤……血!?」


 あわてて見上げたシュウの目には、丸く大きな赤い月から……まるで雫が零れ落ちるかのように、落下してくる細やかな肉片を見た。


 手。

 足。

 臓物。


 それは、頭部のない……部下の切り刻まれた胴体だった。



 狂気に満ちた赤い月。

 それを背負うようにして、静かなる足音響かせて人影が現れる。


 風に靡く長い金髪。

 恐ろしいほど整いすぎた顔。


 夜なのに光を纏う、長身の男の姿。



「まさか――」



 シュウの唇がわなないた。



「まさか、予言の……


"魔に輝けし光を持つ者"……!?」




 現れたのは、それだけではなかった。


 男の背後から聞こえる、がやがやとした喧噪。

 それは動物や赤子の泣き声にも似てはいるが、それとも違う。


 高低定まらぬ不安定な声音は、やがてひとつの単語を紡ぐ。



「ひもじぃ……」



 膨らんだ腹部。痩せ細った体。


 それはひとつふたつのものではない――



「餓鬼!?」




 そう、百は下らぬ餓鬼の群れだった。


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