この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
顔になにかが落ちた。
雨かと思い、頬を指で拭ったシュウは、その指を見て目を細めた。
「赤……血!?」
あわてて見上げたシュウの目には、丸く大きな赤い月から……まるで雫が零れ落ちるかのように、落下してくる細やかな肉片を見た。
手。
足。
臓物。
それは、頭部のない……部下の切り刻まれた胴体だった。
狂気に満ちた赤い月。
それを背負うようにして、静かなる足音響かせて人影が現れる。
風に靡く長い金髪。
恐ろしいほど整いすぎた顔。
夜なのに光を纏う、長身の男の姿。
「まさか――」
シュウの唇がわなないた。
「まさか、予言の……
"魔に輝けし光を持つ者"……!?」
現れたのは、それだけではなかった。
男の背後から聞こえる、がやがやとした喧噪。
それは動物や赤子の泣き声にも似てはいるが、それとも違う。
高低定まらぬ不安定な声音は、やがてひとつの単語を紡ぐ。
「ひもじぃ……」
膨らんだ腹部。痩せ細った体。
それはひとつふたつのものではない――
「餓鬼!?」
そう、百は下らぬ餓鬼の群れだった。