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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
「ありえねぇって……。警備兵もだと!?」
鮮やかすぎる太刀筋。
躊躇もなく、致命傷にまっすぐ刃を向けている。
警備兵でもここまで腕のたつ者は、数少なく。
その数少ない中の警備兵の顔を思い浮かべてるが、そうした者は父であるハンと共に黒陵国の怪奇現象調査に行っているか、あとはシュウくらいしか思いつかない。
「誰だ……誰だよ!?」
サクは偃月刀を握り直し、強張った表情をした。
「――っ!! 離れには……リュカが!!」
リュカは足を引き摺っているため、緊急時に素早い行動が出来ないはず。
リュカの部屋に飛び込んだサクだが、部屋にはリュカはいない。
ほっとして部屋を出たのは束の間。
「――なんで、本殿への戸が開いているんだ!?」
離れから鍵を外すことが出来ても、裏側の本殿からの鍵を外さねば、この重い鉄の戸は開かない。
戸には外傷がなかった。
つまり鍵とは無関係に無理矢理こじ開けられたり、陥没があけられたりしたわけではないらしい。
二重の鍵は……外されていたのだ。
よりによってこの不吉な月夜に、あれだけ警備兵を配置していたというのに。誰の目も盗んで、黒陵の中枢へと続く動線は確保されていたのだ。
そして本殿への入り口が開いているということは――
「姫様!?」
ユウナにも魔の手が及んでいる可能性もあるのだ。
サクは蒼白になりながら、本殿に足を踏み入れた。