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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
  


 婚儀を明日に控えた夜。

 ユウナの元に行きたいという葛藤がなかったわけではなかった。


 だがサクは、今日早い時期からリュカに言われていたのだ。



――サク。今夜僕は……ユウナと夜を過ごそうと思う。



 それは悪しき予言のためだけではないことをサクは感じ取った。



――いいよね?




 今夜だけは、あのふたりの傍にはいられない。


 今夜、明日を持てずしてリュカはユウナを――。

 まだ公にリュカのものにはなっていないユウナを、リュカは――。


 平静を装っていたサクの心は、実際にリュカがユウナの部屋に訪れた時に爆ぜた。


 睦み合うふたりの姿を鮮明に脳裏に描いてしまったサクは、ユウナの部屋から出ると、そのまま庭に駆け込んで思わず吐いたのだった。

 
 酷すぎる現実を覚悟していたというのに……体は納得していない。

 意識のようには騙されない。抑えられない。



 ユウナが欲しくてたまらない――。

 誰にも触れさせたくない――。



 押さえつけたはずの心が、出口を求めて奔流のように激しくうねる。

 押し殺そうとすればするほど、激情が暴れる衝撃に体が叫ぶのだ。



 この苦しみから解放されたいと――。



 これからは昼のユウナを独占出来ても、夜のユウナはリュカのもの。


 リュカの手で女になるユウナを、護り続けられるのか。

 ユウナが望むように、昔のように笑いあえることが出来るのか。


 
 苦しい。

 あまりにも苦しすぎる。



 心が……千切れそうだ――っ!!

 

 サクは何度も何度も吐き続けた。



 ……その後ユウナに会わずして、屋敷の外の警備任務を優先させたのは、ひとえに心の弱さからだった。

 もしも強靱な精神があれば、屋敷内の警備を人任せにせず、なにか異変の片鱗を見つけ出せたかもしれないのに。

 嫉妬を抑えきれないから、こんな惨劇を招くことになったのだ。


――いいか、サク。油断するなよ。……敵は、外とは限らねぇ。出来るだけ俺も早く帰ってくる。だからそれまではお前に任せたからな。


 父とて自分を信頼してくれていたというのに。


 帰らぬ最強の武神将。

 彼の代理は、彼の命に背き……油断して玄武殿を血に染めた。


 凶兆の赤い月を、見ていたというのに――。
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