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吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
 


 なにが護衛だ。

 なにが隊長だ。


 心の底ではユウナを連れ去りたくて仕方が無くて、諦めきれない邪恋の炎で心を黒く焦がしてばかりで、客観的な判断すら出来ない。


 だから最悪な形で本殿に、ユウナの部屋に入る羽目になる――。


 それに嗤いかけたサクの顔が、本殿の有様を見て一気に険しくなる。


 予想していたこととはいえ……本殿も血の海だったからだ。


 赤月が見れぬように戸が閉められた廊に、充満する死の香。

 折り重なる屍の中には、知った警備兵もいる。


 やはり喉もと一太刀、抵抗すらする暇も与えていない。


 その屍の顔にユウナがないことを横目で確認しながら、やがて、開け放たれたままのユウナの部屋に行き着いた。



「姫様、姫様、姫様――っ!?」



 いない。


 どこにもユウナがいない。



 寝台の上を触った。


 まだ少し温もりがある。

 少し前までは、この部屋でちゃんと生きていた。


 この部屋にいないのは、逃げたのか?

 連れ攫われたのか?



 一体どこへ――!?



 そんな時だった。





「いやああああああああ!!」




 ユウナの叫び声が聞こえたのは。

 サクの耳が聞き違えるはずはない。


 間違いなく、ユウナの声だった。


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