この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第5章 回想 ~終焉そして~
なにが護衛だ。
なにが隊長だ。
心の底ではユウナを連れ去りたくて仕方が無くて、諦めきれない邪恋の炎で心を黒く焦がしてばかりで、客観的な判断すら出来ない。
だから最悪な形で本殿に、ユウナの部屋に入る羽目になる――。
それに嗤いかけたサクの顔が、本殿の有様を見て一気に険しくなる。
予想していたこととはいえ……本殿も血の海だったからだ。
赤月が見れぬように戸が閉められた廊に、充満する死の香。
折り重なる屍の中には、知った警備兵もいる。
やはり喉もと一太刀、抵抗すらする暇も与えていない。
その屍の顔にユウナがないことを横目で確認しながら、やがて、開け放たれたままのユウナの部屋に行き着いた。
「姫様、姫様、姫様――っ!?」
いない。
どこにもユウナがいない。
寝台の上を触った。
まだ少し温もりがある。
少し前までは、この部屋でちゃんと生きていた。
この部屋にいないのは、逃げたのか?
連れ攫われたのか?
一体どこへ――!?
そんな時だった。
「いやああああああああ!!」
ユウナの叫び声が聞こえたのは。
サクの耳が聞き違えるはずはない。
間違いなく、ユウナの声だった。