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吼える月
第18章 荒波
燦々とした陽光を落とす天空は、相変わらず雲ひとつない蒼玄――。
だが少し風が出て来たようで、海原には小さくだが波が立ち始めた。
風が運ぶ、磯の香。
ザザーンと明瞭に聞こえ始めた波音は、逆にそれ以外の静寂さを際立たせながら、ゆらゆらと揺れるふたりの乗る貨物船は、綱で先導する母船が辿る航路を進んでいく。
「姫様、寒くねぇですか?」
「ええ、温かいわ、おかげさまで」
結局――。
根負けしたユウナは、サクの膝の上に座って海原を見ている。
確かに特等席だ。
冷たい潮風も、後ろから抱きしめるサクのおかげで身体が冷えることはないし、座り心地もただの袋の上に座っているよりは断然快適だ。
きらきら光る海原。
見える景色もまた、サクが称賛していたほどに絶景で。
……だが、別にここまでくっつかなくてもいいのではないだろうか。
ユウナは内心疑問を抱えていた。
なによりサクが吐き出す息が首筋にかかり、くすぐったさ以上におかしな気分にさせてしまうものだから、そちらばかりが気になってしまい、折角の風景を堪能出来ないのだ。
……なまじ、サクの悩ましい息遣いを体感してしまっているだけに、こうしている体勢からして、そういう行為のひとつだと、身体が錯覚してしまう。
「あのね、サク。もう寒くもないし、ふたりで並んで見ていても……」
「離した途端、姫様逃げるでしょう? 姫様の足先、ずっと逃げようとする角度です!!」
「逃げる角度って、どんな……」
「いいですか、姫様。これは慣れるために必要な"お仕置き"です!! 治療にしろ、治療でないにしろ。この先目覚めた姫様がずっとこんな感じでは、やり難いですから。なにせ俺達は、これからもずっと一緒にいるんですからね!!」