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吼える月
第18章 荒波
「善し悪しではねぇんです。……恋する身としては、後悔されたり嫌われたりせずにひたすら進展できるよう必死なもんで……って、いえ、それはこちらの話。だからこれは"お仕置き"です。いいですね、お仕置きです!! はい、復唱!!」
「は、はい。こ、これは、お仕置きです」
なにやら理不尽なものも感じるが、惑うユウナはサクに飲まれる。
「姫様、寝たふりはなしですよ? お仕置きの意味ないですから」
「サク……、護衛役解いてから意地悪になった……」
ぼそりと、ユウナは呟く。
「もともと俺はこんなもんですよ?」
しかしサクは平然と答える。
「だって俺、親父の血を濃く引いてますし……。なにより姫様、俺と付き合いが長いんですから、その片鱗は感じ取られていたでしょう? 姫様だって十分意地悪で俺泣かされてきたし、お互い様でしょう。なにを今さら」
言い返せないユウナは、むくれながらぼやく。
「だけど玄武殿でのサクは……なんていうかもっと遠く感じていたし。ここ1年の間くらい特に。近くにはいたんだけれどね、なんていうか……感情の起伏があまりなかったような……。意地悪と感じるだけの近さを感じなかったというか……」
ユウナの腹に回されたサクの腕が、びくりと震えた。
「俺、そんなに顰めっ面してました?」
「ん……。昔みたいに笑うことは笑っていたけど……本当に笑いたくて笑っているのかなって思うことがあって。なんていうかね、妙に他人行儀でおとなしすぎて、気持ち悪くなる時があったというか……」
「………」
サクの眉間に深い皺が刻まれる。
隠していたはずの隠しきれない荒んだ情――。
それを、よりによって見せたくなかった本人に暴露されたサクが、悔悟の表情で顔を歪めていることを、後ろ向きのユウナは知らない。