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吼える月
第18章 荒波
「ん……難しいわね、言い方が。サクであってサクではないような。それにひとりで妙に大人びちゃってたし。なんていうか、ひとりで達観しちゃってるような?」
「それでいけば、喜怒哀楽が激しい今の方がガキだということで?」
「違うわ。大人なのは断然に今の方。どうしてなのかしら…。やはりあの玄武殿を脱出して、武神将になったから?」
思わずサクは苦笑する。
なにもわかっていない愛しい姫。
少し頭を働かせれば、なぜその1年を限定して様子がおかしかったのか、察してくれてもいいものを。
まだ、自分の想いは……身近に考えられていないのかもしれない。
そこに残念感はあるものの、それでも今は、1年前とは違うから――。
ユウナに、想いを伝えられる環境にあるから――。
サクはユウナをぎゅっと抱きしめながら言った。
「……八方塞がり状態の中で、ようやく道が拓けたからですよ。ここまで来るのに、多くの時間と沢山の人に迷惑かけてきましたが」
「え?」
ユウナはきょとんとした顔で、サクを振り返る。
「意地悪も愛情の裏返し、ということです。自分の気持ちに素直になった分、素直になることを許された分……、俺はきっと姫様限定で意地悪になれるんです」
やけに朗らかに笑うサクを見て、ユウナは眉間に皺を寄せて難しい表情をした。
「………。それ、あたしは喜んでいいの?」
「そりゃあ。俺、愛がない意地悪はしませんし。姫様だけに特別です」
「ん……、ありがとう……って言った方がいいの? だけど意地悪は意地悪だし、だけどあたしだけ特別というのは悪い気もしないし。うーん……」
真剣に考え込んでいるユウナを感じ取り、サクはくすりと笑って話題を変えた。
「なんか……腹減りましたね」
きゅるるるるる~。
そう言った途端に切なげに鳴り響いた、ユウナの腹の虫。