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吼える月
第18章 荒波
 

 ばりばりばり…。

 
 船かなにかが砕かれている音かと思ったユウナは、途端に目を見開いた。

 サクが突き刺した鋭利な刃が、あの大きな強靱なサメの下顎を砕くようにして下に裂いていたのだ。

 その時たてられた音は、堅い骨が砕かれた音だったのだろう。


 サメの顎の骨に耐えられる刃もさることながら、それをそのままの状態で引き動かせるサクもサクだ。


 聞こえた……絶叫のような甲高い音は、サメの声なのだろうか。

 それとも別の場所からした、子供の悲鳴なのだろうか。


 ユウナの判断がつかぬまま、サクが操る鋭利な刃は、サメの下顎を真っ二つに斬るだけに留まらず、喉から腹に向けて縦に裂いていく。


 顎を抜けると刃は柔肉を切るが如くにするすると滑るように動き、同時に柄に掴まり尾まで滑り落ちるふたりの加速も大きくなったため、体躯を反らせるようにしてもがき苦しむサメの動きに阻まれた他のサメは、尚更ふたりを捕えることが出来ない。

 サメの腹から降り注ぐ、生臭い臓物の洗礼を受ける前にサクはあっという間に移動を済ませ、傾き沈みかけた船体の一部を次々に蹴飛ばして跳ねながら、船として形をまだ留める先頭の母船まで移動した。


 ふたりの危機は脱したいえど、母船と思われる大きな船から複数の悲鳴が大きくなり、同時に襲いかかるサメの姿と、血に染まる海面にユウナは悲鳴を上げた。


「サク、サク!! 先の船にはテオンやイルヒ、他の子供達がいるわ。このままだと全員食べられちゃう!! サク、彼らを助けることできる!?」

「元よりそのつもりで」



 そして、行き着いた母船。


 逃げ惑う子供達。

 勇敢に戦う子供達。


 それを海から現われては難なく攫って噛み砕く、忌まわしき魔魚。


 サクは子供に襲いかかるサメを片っ端から切り倒し、海に放り捨てていった。
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